2025年10月28日 東京新聞 朝刊 朝刊茨城版 16頁 見出し 陸上 中村大地選手19歳。 自己ベストで決勝へ。 毎年更新「右肩上がり」。 見出しここまで。 用語説明ここから デフ陸上 スタート時の合図が聞こえないため、3色のスタートランプで知らせる。赤=位置について、黄=用意、緑=スタート。ランプは短距離では顔の下に、中長距離は立てかける形で置かれる。会場は駒沢オリンピック公園陸上競技場。中村選手の1500メートルは予選が18日、決勝19日。800メートルは予選21、22日、決勝23日。 説明ここまで。 本文ここから。 挑む。「自己ベストを毎年更新している。右肩上がりです」と笑う。1500メートルと、得意の800メートルに出場する。800メートルは短距離に近いスピードで走りながらも他の選手との接触、転倒もあり「走る格闘技」といわれる。1500メートルは選手間の駆け引きが勝負に影響する。初のデフリンピックに「2~3番目につけて、いかに耐えるかが決勝進出につながると思う」と臨む。  生まれつきの感音性難聴で、補聴器を付ければ手話が無くても会話できる。小中学校は聴者と同じ学校に通い、中学ではバスケットボール部で「チームを強くしたいから」と主将を務めた。「体育館では他の部活も練習していて、音がうるさかった。先生や友人の声を聞き取りづらかった」という。  陸上との出会いは、岩手県立盛岡聴覚支援学校の高等部。「ほかに部活がなかったから、仕方なく陸上部に入った。1年の時はおもしろくなかった」。2年でろう者の全国大会で800メートル2位、1500メートルで優勝し、波に乗る。3年では両種目で優勝した。  筑波技術大に入ったのは、ろう者への情報提供が保証されていることと、他のろう者との関わりを広げたいと思ったから。練習は近くの筑波大と自主的に週5日。5月の選考会で今大会の代表入りを決めてからは、北海道などで強化合宿に参加してきた。  持ち味はラストスパート。初の国際大会となった昨年7月の台湾での世界デフユース選手権では、終盤で順位を上げ、800メートル、1500メートルでいずれも銅メダルを獲得した。両種目ともスピードとスタミナの双方が求められ、「練習は苦しい。でも、自己ベストを出した時の達成感がほかの競技にはないのでは」と語る。  現在の自己ベストは800メートルが1分59秒86、1500メートルが4分13秒76。いずれも今年6月に出した。今大会ではその更新を狙うとともに「台湾で競った海外の選手たちと再会できるのが楽しみ」という。特にライバル視するのが、世界デフユース選手権800メートルで優勝したチェコのダラック・ダリバー選手。「この選手には勝ちたい」  今大会の目標は「自己ベストを出して決勝進出」と力を込める。「多くの人にお世話になった分、1試合でも多く競技場で走って恩返しをしたい」という。  高校の時の陸上部顧問で現在は岩手県立花巻清風支援学校の白藤友一教諭には、今もLINEで動画を送って練習やフォームについて助言を請い、地元に帰った時は練習を見てもらい指導を受ける。白藤教諭は「からっとした性格で、何事にも一生懸命取り組む頑張り屋」と評価する。「陸上を始めて5年。がむしゃらにやる時期。それでもいいタイムを出す力を持っている」  競技スタイルを「走りながら充電できるタイプ」と例えた。「後半に力をためておける。ペース配分する中で力を温存するわけではなく、終盤にもうひと踏ん張りできる力をためられる。天性のものでしょう」。今大会では「自己ベストを更新できれば、決勝まで残れる」と期待する。 なかむら・だいち 2006年、盛岡市出身。筑波技術大産業技術学部産業情報学科2年。好きな食べ物はドーナツなど甘い物で、大学芋を自分で作る。趣味はアニメ鑑賞。「ワンピース」は原作を読んだ。バスケットボール、ボウリングで気分転換。「筋肉痛や疲労が抜ける感じがする」と、つくば市内のサウナに行くことも。 本文ここまで。 写真の説明 デフリンピック前の最終選考会で力走する中村選手(埼玉県)と、本学で取材を受けているときの様子。 テキストここまで。